監督インタビュー

たまこの内面を映画で掘り下げたいと思いました

----------- 最初に、この映画で描きたいと思ったことは何でしょうか?

たまこというキャラクターを一人の女の子として描きたいという思いがありました。 たまこの内面を、映画で掘り下げられればと思ったんです。青春の香り漂う素敵な空間のなかで17歳になったたまこを描いてみたくて。

----------- たまこの内面を描くためにこの題材を選んだということでしょうか?

そうですね。たまこは、お母さんが早くにいなくなってしまったので、お母さんの代わりになろうと一足早く大人になってしまった部分が強いんです。 成長して大人になったというより、その過程をとばしてしまったというか。 だから、みどりたちと同じ場所にいても、同じ目線で立たせるということが、とても難しくて。大切に描いていかなくては、と思いました。

ラブストーリーは全てが「挑戦」でした

----------- 映画の内容はどのように決まっていったのでしょうか?

たまこを描く前提で、お母さんの話や商店街を盛り上げるというアイデアを出しながら、たまこの形をしっかり見せる物語を作り始めたんです。 いろんなアイデアが出ましたよ。母の日のエピソードとか、デラの家族がでてきたりとか(笑)。

----------- 見てみたいです!

機会があれば(笑)。一貫していたのは、たまこの内面を掘り下げるうえで必要なのはなんだろうということ。 17歳の女の子を描くのであれば、変化が起きるのはどこだろうということになり、学校に焦点を当てることになりました。

今回、映画の題材を恋愛にしたのは観てくださる方に共感していただける部分が多くあるのでは、というところからなんですが、個人的にはたまこともち蔵の関係性がとっても気になっていたからというのも大きいです(笑)。 ただ、恋するたまこを描くのは彼女の禁忌に触れる気分というか……。たまこを掘り下げると暗い話になってしまうかもしれないと気を遣っていました。でも、そうではないのではないかって。

----------- たまこだって恋をするんだと。

ええ。たまこをそういう意味で特別に扱っているのは、彼女に失礼だな、と思いまして。

後ろ向きではなく、17歳の少女が前向きな一歩を踏み出すにはきっと「恋」がいいんだと思いました。 でも、等身大の女の子の感覚に近い恋心を描くというのはとても細かく神経を使うことでした。 恋というのはとても魅力的な題材だけれど、実際はきっと少しずつ知らず知らずのうちに芽生えていくものだと思うので、そこをすくいとっていくのが本当に難しかったです。 まるで、絵の具を混ぜて淡いピンク色を作るような気分でした。少し加減を間違えるときつい色になっちゃうし・・・。みたいな感じで。 ラブストーリーというのはとても難題でした。

----------- なるほど。では、たまこにとっての恋はどのようなものなのでしょうか?

その辺りがとても繊細な部分だったので、彼女の恋を描く以前に、たまこって根本的にどんな子なのかなという芯の部分と、彼女の哲学をしっかりと探ろうと思いました。 シナリオ会議のときからコンテにしていく過程で色々考えていくうちに、やっぱりそれは「お母さん」という身近な存在なんじゃないかって思い至りました。

ここまではシリーズのたまこと変わりないのですが、今回たまこが「おもちみたいな人」になりたいというシーンがあって、たまこが言うおもちみたいな人が「お母さん」の「ひなこ」だということがつながった時、納得できたというか。 さらに母親になろうとしていたのではなくて、たまこはひなこさんのような女性になりたかったんだなって思ったときに、たまこという女の子がもっといじらしく思えてきて。 ひなこさんと接していた時間、たまこはとても満たされていたんだと思うんです。

----------- コンテに入られてからはどのように取り組まれていたのですか?

たまこは魅力的な女の子なんですが、映画ではとても繊細な部分に触れるので、たまこのシーンがなかなか描き出せませんでした。

なので、作画の打ち合わせでも、最初のうちはたまこのパートだけ抜けた状態でやっていましたね。

----------- その状態で作画に入るんですか!?

作監さんや原画スタッフからしたらちょっと大変ですよね。申し訳ないことをしてしまいました(笑)。 シーンのパズルを組む感じと言うか。今回一人でコンテを描かせていただけたのでできたことでした。 というか、スタッフのみなさんがコンテの上がりを辛抱強く待ってくださったからできたというか……。

----------- それはもう監督の頭の中を覗かないと分からないですね。

そう言っていただけるとなんだかかっこよく聞こえますね(笑)。あ、でもよく周囲の人から感覚で作業しているといわれるのですが、自分ではどちらかというと逆のような気がしています。 結構がんばって端々まで計算してるんですよ。数学とか苦手なのでつらいですけど。人の無意識はずっと意識して演出しています。

素敵な気持ちで観ていただけるフィルムになっていると思います

----------- 現在鋭意制作中とのことですが、制作現場の雰囲気はいかがですか?

現場では、みんなで作り上げています。 今、ホットにお届けできるのが、ある先輩アニメーターの方がシナリオ段階から「みんな読め!恥ずかしいから!」と言って下さったことです(笑)。 京都アニメーションのスタジオは色んな作品と並行して制作しているので、セクションごとに作業中の作品が違ったりして作品の温度を感じるのに時間差が出たりするんですが、その言葉で一気にシナリオを読んだスタッフが身悶えることになりました。 そして、作画の打ち合わせのときにも、こちらから原画スタッフの方にお願いするよりも先に、積極的に「このシーンを描きたいな」と言ってくださる空気を作って下さって。たまこ班、熱いですよ!

----------- その熱気が映像に活かされてくるんですね。

今回は「映画」ということをだいぶ意識しています。 TVシリーズでは難しく考えないで素直に楽しいものを描いているので、画面もそういった意識で特に「多幸感」を重要視していたんです。 ですが、今回は楽しいプラス甘切ない、キュンとくる。そういう感情を色味やレイアウトに入れ、無意識下に働きかける感じにしています。感情の色を沢山つけていきたかったんです。 今回は素直に「映画」を作っているなと思いますね。素敵な気持ちで観ていただけるフィルムになっていると思います。

----------- こだわりはどんなところでしょうか?

こだわりですか。たまこたちの空気感を描くこと、でしょうか。TVシリーズは主題をまっすぐ描いていたので、今回はそれをひっくるめた世界を描きたかったんです。

それと今回は望遠レンズを意識したレイアウトが多いです。ラブストーリーは望遠かな、と。

あとは、感情を表現することをちゃんとしよう、観てもらう人に「?」がないようにしようと考えていました。 小さな積み重ねをしつつ、一個一個のシークエンスでなるべく謎を残さないように描いています。

----------- ありがとうございました!

自分のことも大事にできるたまこを描きたいと思いました

----------- インタビュー第二回ということで、ここで各メインキャラクターのみどころをお聞かせください。
・たまこ

今までの彼女を崩さず、周りの人たちだけでなく、自分のことも大事にできるたまこを描きたいと思いました。 今まで恋を知らなかったたまこの世界が一個増えて、視野が広がった感じで。 彼女は17歳にしては熱に浮かされず、思春期を通り越して大人でした。それは悪いことではないんですが、それゆえに見えていないものがあった。 だから、一人の女の子が自分自身に向きあおうとするまで、悩んで、色をつけていく様が描けていればと思います。

・もち蔵

彼は今回大きな決断をしていて、個人的にとても尊敬しています。 決断できる人は本当にかっこいい。 いつもどおりの情けなさもあるけれど、今回のもち蔵はとても男らしいですよ。

・みどり

不器用な子だなと思います。一番危ういけれど、とても魅力的な子。 みどりが持っている感情は思春期の複雑さそのものだと思います。 冒頭からずっと、目が放せませんでした。この子どうするのかな?どう立ち回っていくのかな?という感じで。 でも、最後には笑顔でいて欲しい子ですね。 見ていただく方にとっても、一番思春期のゆらぎを体現している子だと感じられるのではないでしょうか。

・かんな

たまこと同じ職人気質の子です。自営業の家の娘で将来は家を継ごうと思っていて、ある意味感性がたまこと似ているんですよね。 今回はかんなも等身大の女の子として描きたいと思っていました。終始ぶれないけれど、ちょっと弱い部分も見せてたり。 一歩踏みだそうとするかんなはとても女の子で可愛いです。今まではずっと飄々としているキャラを貫いていたので、今回は、より人間らしさを出すことが出来たと思います。 でもやっぱり飄々としているんですけどね(笑)。

・史織

史織さんはこの映画の中で、たまこにとってとても大きな存在だと思います。史織さんが持っている女の子の強さがたまこをひっぱってくれました。

TVシリーズで人との距離感をうまくとれるようになって、きっと自分のままでいいということが分かったんだと思います。それがカゴから出た鳥のようだと思いました。 たくさんのことに目をきらきらさせて向かっていくとっても魅力的な女の子です。

・あんこ

小6の子でも、感性は大人に近いと思っています。自分の芯の部分がぶれないし、根本的な美学も出来上がっています。 今回はあんこを一人の女性として扱っても良いんじゃないかと思っていましたので、小学生の妹ではなく、「お姉ちゃんのいる妹」という感じで描いています。

たまこの恋を描く、という覚悟なんだと思いました

----------- 「たまこラブストーリー」というタイトルをつけた理由をお聞かせください。

TVシリーズの「たまこまーけっと」ではたまこがいる場所を描いていました。 今回はたまこ自身に焦点を当てて物語を描くことになりましたので、たまこのストーリー、しかも恋愛がメインということで「たまこラブストーリー」というタイトルに決まりました。 シナリオ段階で仮に置かれていたタイトルをそのまま使わせていただく形になったのですが、これはたまこの恋を描く、という吉田玲子さんの覚悟なんだと思いました。 ですので私も覚悟を決めてたまこの恋と向き合おうと思いこのタイトルに決めました。

----------- とっても「青春映画」の匂いがしますね。

17歳の男女が何かを考えているだけでもう青春ですよね。彼らが息することですら青春に見えてしまいます(笑)。

この作品ではそういう他愛の無さをも愛せるようなフィルムを目指しました。

南の島に帰ってからのほのぼのしたやりとりを描いてみました

----------- 同時上映の「南の島のデラちゃん」についてのコメントをお願いします。

南の島の楽しいお話を描きました。

コミカルな内容なので楽しく見ていただけると思います。デラちゃんが南の島とうさぎ山を結ぶかけ橋になっているように見えれば嬉しいです。

映画の本編はたまこたちが自分たちの足で一歩を踏み出さなくてはいけないお話でした。デラちゃんがたまこたちの傍にいると、たまこたちが自分の足で立つ前にどうしても頼ってしまいそうで。 なんだかんだでデラちゃんは大人なので。とはいえせっかくの映画なのにチョイちゃんやデラちゃんたちに会えないのはなんだか寂しかったので、短いお話を作らせていただきました。

この短編では、デラちゃんが南の島に帰ってからのほのぼのしたやりとりを描いてみました。 美術スタッフと「南の国に行きたいなぁ…これが終わったらきっと行くんだ…!」みたいな感じで、南の国に熱い思いを馳せていたんです。 デラちゃんたちの住む幸せな島を夢と希望を詰め込んで作り上げてみました。

----------- 最後に「たまこラブストーリー」の公開を楽しみにされている皆さまへメッセージをお願いします。

このお話はたまこの芽生えを描いていますが、きっと観る人によって心に引っかかる部分が様々になるのではないかなと思いつつ。 たまこだけでなく、もち蔵、みどりやかんなや史織の勇気の一歩も描いているので、彼らのそれぞれの思いにどこかみなさまの思いとリンクする部分があるといいなと思っています。

春の暖かい時期にたまこたちが、またみなさまとお会いできることがとても嬉しいです。どうぞおたのしみください。

----------- ありがとうございました!
©京都アニメーション/うさぎ山商店街